「東風(こち)吹かば にほひをこせよ 梅の花、主(あるじ)なしとて、春を忘るな」
(訳:春風が吹いてきたならば、梅の花よ、その香りを送って寄こしておくれ。主人の私がいないからといって春を忘れないでおくれ)
詠:菅原道真
まるで、愛する人への恋文のようなこの詠は平安時代、梅の花を愛した菅原道真が邸宅に咲く梅の木へと別れを惜しんだ詠として知られています。
寒さに耐え、それでも輝きを失わない強かな梅の花の姿に道真は励まされていたのかもしれません。
そんな道真の心を通して梅の花の姿を眺めてみれば、いつもは気づかなかった梅の花の美しさや香りの清廉さに気がつきます。
和歌は当時、教養や地位を示すための手段でもあったという背景から、言葉の質が高く、趣向が凝らされ、心の発露を掬うかのような言葉が何層にもなって散りばめられています。
和歌を通じて、過去の人々の思いや感性に触れることができるのは、とても豊かな体験です。そしてそれは今まで見えてこなかった美しさを発見するまなざしを与えてくれます。
立春を迎え、これから大地は新たな生命に溢れていきます。和歌という古人の感性を通して、芽吹く自然に心寄せてみてはいかがでしょうか?